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コラムタイトル

配偶者の扶養に入ると「年金」はどうなる?保険料支払いや受給額の違い、手続きをまとめて解説

リード

結婚している状態で一定の収入額を下回った場合、配偶者の扶養に入ることになります。その収入額は「130万円の壁」「150万円の壁」などと表現されることがありますが、扶養に入ることでどのような変化が生じるのでしょうか。

ファイナンシャルプランナーの中村賢司さん監修のもと、扶養に入ることで受ける影響を紹介していきましょう。特に、将来受け取れる年金について、どのような変化が起こるのか、解説していきます。

※この記事は 2024年 4月15日に更新しています。

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コラムサマリ

■そもそも扶養とは?

「税制上の扶養」は配偶者の所得税に関係するもの

「社会保険上の扶養」は自身が支払う社会保険料に関係するもの

もっとも重要なラインは「130万円の壁」

■扶養に入ると、老後の年金はどうなるの? 扶養に入った方の区分は「第3号被保険者」 第3号被保険者の間は納付期間にカウント

「老齢年金」以外の年金も同様にカバーされる

■扶養に入るか外れるか…どちらが有利? 扶養に入るメリットは「社会保険料の免除」扶養から外れるメリットは「年金額の増加」

2パターンの年金シミュレーション

■扶養に入る時に必要な手続きは?

配偶者の勤務先に必要書類を提出

認定要件は「過去の年収」ではなく「未来の年収」

手続きを忘れても半年間はまだ間に合う

■扶養から外れる時も手続きは必要?

ポイントは扶養から外れた後の手続き

離婚をしたら扶養から外れるため手続きが必要

■扶養に入ったら健康保険はどうなるの?

被扶養者も病気・ケガ・介護に対する保険給付あり

扶養に入ると「出産に関する補助・給付金」は減少

民間の生命保険は控除の対象になる可能性あり

■ライフプランによって変わる働き方

本文

そもそも扶養とは?

「扶養」には、次の2種類があることを知っておきましょう。

•     税制上の扶養

•     社会保険上の扶養

夫が正社員、妻がパートの夫婦を例に、この2つの違いを解説していきます。

「税制上の扶養」は配偶者の所得税に関係するもの

「税制上の扶養」とは、妻のパート収入が一定額を下回った際に妻自身の所得税 や住民税が免除されるだけでなく、夫の所得にも「配偶者控除」または「配偶者 特別控除」という所得控除が適用されることを指します。

所得控除とは、所得の合計額から一定の金額を差し引くことです。その結果として、納める所得税や住民税が少なくなります。

●配偶者控除

妻の年収が 103万円以下の場合に、夫の所得から一定額が控除される制度1) で、夫の所得によって控除額は変わります。合計所得金額が900万円以下であれば、38万円控除されます。

●配偶者特別控除

妻の年収が 103万円超~201万6,000円未満の場合に、夫の所得から一定額が控除される制度2)です。妻の収入に応じて、控除額が38万円から徐々に減額 されていきます。

扶養の話でよく出てくる「150万円の壁」とは、「配偶者特別控除」の控除額の上限38万円をキープできるラインのことです。妻のパート収入が150万円を超えてしまうと控除額が下がり、夫の所得税や住民税が上がってしまいます。 所得控除の1つに「扶養控除」というものもありますが、これは親や子どもとい った“配偶者以外の親族”がいる場合に適用されるものです。夫婦2人で生活している場合は、関係ありません。

■年収と所得の違いって?

お金の話をする際によく出てくる「年収」と「所得」という言葉。元々は税金の計算のために分けられている用語ですが、友人の間などで話題になる「手取り額」という言葉にも関係しています。ここで簡単に用語の解説をしましょう。

・年収……給料やボーナスなど、1年間に会社などから個人に支払われたすべてのお金のこと。税法上は「収入」と呼ばれています。

・所得……年収(収入)から「給与所得控除額」を差し引いたもの。給与所得控除額とは、必要経費にあたる金額のことで年収によってその金額は変わっ てきます。例えば収入が180万円超360万円以下の場合は「収入の30%+18万円」が経費と認められ、収入から引かれます。

年収と所得の金額の違いは、年末に会社から渡される『源泉徴収票』を見れば分かりますのでチェックしてみましょう。ちなみに「手取り」とは所得から所得税などの税金や社会保険料が差し引かれて手元に残る金額のことです。

「社会保険上の扶養」は自身が支払う社会保険料に関係するもの

「社会保険上の扶養」とは、妻のパート収入が一定額を下回った際に妻自身の社会保険料(年金保険料や健康保険料のこと)が免除され、さらに夫の被扶養者となり、夫の健康保険や年金に加入していることと同義になることです。

一般的に使われる「扶養に入る」とは、この「社会保険上の扶養」を指します。 妻が夫の扶養に入れば、妻の社会保険に関する負担が免除されます。

社会保険上の扶養のラインが「130万円の壁」と言われるものです。妻の年収が 130万円を超えると、夫の扶養から外れ、自身で社会保険料を支払わなければならなくなります。

ただし、例外があるので注意しましょう。たとえば、妻の勤務先の企業が従業員501人以上の場合、社会保険上の扶養のラインは106万円に引き下げられるため、勤務先の規模を把握することも重要です。ちなみに、2022年10月以降は従 業員101人以上の企業に勤めている方も、106万円に引き下げられる予定です3)。

また、従業員の人数に限らず、次の5つの要件をすべて満たすと社会保険に加入しなければいけません。

•     勤務先が従業員 501名以上の企業

•     週の所定労働時間が 20時間以上

•     賃金の月額が 8万8,000 円(年収106万円)以上

•     勤務期間が1年以上の見込み

•     学生ではない

さらに注意点があります。夫(扶養する側)が会社員または公務員などの給与所 得者の場合に限り、妻は扶養に入ることができます。夫が自営業者やフリーラン スの場合は、妻の年収が130万円に達さないとしても扶養に入れないのです。 誰でも扶養に入れるわけではないことを覚えておきましょう。

参考資料

3) 日本年金機構「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大

もっとも重要なラインは「130万円の壁」

「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」、それぞれの要件をおさらいしましょう。

年収100万円を超えると住民税、103万円を超えると所得税が課せられますが、 そこまで大きな金額がかかるわけではありません。

もっとも注意するべきは「130万円の壁」(または「106万円の壁」)です。なぜかというと、社会保険料と税金を合わせて収入の2割弱程度が天引きされてしまうからです。

年収別に、社会保険料と税金でどの程度引かれてしまうのか、算出してみました。

年収129万円で社会保険に入っていない人が配偶者の扶養に入るケース(図中①)と、年収150万円で扶養から外れるケース(図中②)を比較してみましょう。手取り金額だけでいうと、年収129万円の方のほうが多いのです。時給900円のパートとすると、年収150万円の方は年収129万円の方より233時間以上多く働いた計算になりますが、手取りは少なくなってしまいます。それだけ社会保険料の負担は大きいのです。

年収を130万円(または106万円)以内に収めることができれば、大きな負担をかけずに年金や健康保険にも加入できます。かたや、130万円を超えてしまう と社会保険料の支払い義務が発生するため、働き損になる可能性が出てきます。130万円を超えそうなのであれば、手取り分を増やすためにも年収180万円を超えることを目指すというのも手です。

なお 2023年4月現在、政府はこれらの「年収の壁」制度を見直す旨の発言をしています。

扶養に入ると、老後の年金はどうなるの?

配偶者の扶養に入ることで、社会保険料を支払わずとも年金を享受できることはわかりましたが、どの程度の額が受け取れるのでしょうか。まずは、日本の年金制度を確認しましょう。

扶養に入った方の区分は「第3号被保険者」

日本の年金制度は1階が基礎年金、2階が厚生年金の2階建てになっていて、年金保険料の納付期間によって受け取る年金額が変化します。また、働き方によって、支払う年金保険料や受け取れる年金が異なります。

●第1号被保険者

自営業者やフリーランス、農業者、学生など。毎月国民年金保険料を支払い、1階部分の基礎年金を受け取れます。

●第2号被保険者

会社員や公務員などの厚生年金保険加入者。年金保険料は会社と折半で負担し、 毎月給与から天引きされ、基礎年金に加え厚生年金も受け取れます。

●第3号被保険者

第2号被保険者の扶養に入っている配偶者。年金保険料は免除されますが、1階部分の基礎年金を受け取れます4)。

第3号被保険者の間は納付期間にカウント

65歳から支給される老齢基礎年金を受け取るには、最低でも10年間(120カ月)年金保険料を納める必要があります。最長40年間(480カ月)納付すると、 年金を最大額受け取ることができます。

配偶者の扶養に入り、第3号被保険者となっている期間は、年金保険料を免除されますが、納付期間にはカウントされます。たとえば、10年間第3号被保険者でいたとすると、10年間第1号被保険者として国民年金保険料を納め続けていた方と同等の老齢基礎年金を受け取ることができるのです。子育てや親の介護で就業が難しい方にとっては、貴重な制度と言えるでしょう。

参考資料

4) 日本年金機構「第3号被保険者」

「老齢年金」以外の年金も同様にカバーされる

日本の年金制度でカバーされるのは、老齢年金だけではありません。病気やケガが原因で障害が残ってしまい、仕事や生活に制限が生じた際に支給される「障害年金」、家族が亡くなった際に遺族に支給される「遺族年金」もあるのです。

「障害年金」「遺族年金」に関しても、支給要件を満たしていれば、第3号被保 険者やその家族に支給されます。老齢年金と同様に、1階部分の障害基礎年金、 遺族基礎年金が支給されます。

扶養に入るか外れるか…どちらが有利?

年金は、扶養に入っても受け取ることができます。そう考えると、やはり扶養に入るほうがメリットが大きいのでしょうか。

扶養に入るメリットは「社会保険料の免除」

配偶者の扶養に入ることのメリットは、第3号被保険者になり、社会保険料が免除されることと言えるでしょう。ただし、年金は1階部分の基礎年金しか受 け取れません。

将来の年金よりも、現在の負担を減らして手取り額を確保することのほうが重要だと考える方は、年収を130万円(または106万円)以内に収めたほうがいいでしょう。

扶養から外れるメリットは「年金額の増加」

年収が130万円を超えて扶養から外れると、社会保険料が発生して、負担ばかりが増すと考えてしまいがちです。しかし、負担が増す分、将来的に返ってくるものが大きくなります。

パートであっても、会社員として社会保険料を支払うのであれば、第2号被保険者になります。つまり、厚生年金保険料を納める義務が発生するため、1階部分の基礎年金だけでなく 2 階部分の厚生年金も受け取ることができるのです。 第3号被保険者でいるよりも、将来の年金額が増えます。

日本の年金は、65歳から生きている間ずっと、一定額を受け取り続けられる制度です。金額が多ければ、その分だけ老後の生活に余裕が生まれると言えます。 老後資金に不安があるようであれば、配偶者の扶養から外れてしっかり働くと いう道を検討してもいいでしょう。

2パターンの年金シミュレーション

具体的に、老齢年金額にどの程度の差が生じるのか、扶養に入ったパターンと外れたパターンで計算してみましょう(将来の年金額は正確に試算することはできません。あくまで試算としてご理解ください)。

まず、結婚を機に配偶者の扶養に入る場合(22歳で就職→30歳から60歳まで配偶者の扶養)、受け取れる年金は約95万円になります。

もうひとつのパターンとして、結婚を機に配偶者の扶養に入り、その後仕事復帰 する場合(22歳で就職→30歳から配偶者の扶養→40歳で復帰し60歳まで働く)、年金額は約128万円に増えます。

※ともに20歳からの2年間は国民年金を納付、就業中の平均標準月額は25万円で計算。

※この年金試算はあくまでも概算のため、ご自身の年金額の試算は「ねんきんネット(https://www.nenkin.go.jp/n_net/)」を利用するか、年金事務所へお問い合わせください。

40歳から60歳の20年間働くことで、将来の年金が月3万円程度多くなること がわかります。ただ、その間は社会保険料を支払っています。扶養に入って負担 を減らすか、扶養から外れて年金を増やすか、どちらが自分や家族のライフプランにフィットするか、しっかり検討することが大切です。

扶養に入る時に必要な手続きは?

収入が少なければ、自動的に配偶者の扶養に入れるというわけではありません。

手続きをしないと扶養には入れないので、忘れずに行うようにしましょう。

配偶者の勤務先に必要書類を提出

配偶者の扶養に入る際には、扶養する側の勤務する会社に必要書類を提出しなければなりません。たとえば、妻が夫の扶養に入るのであれば、夫の勤務先に書類を提出することになります。

〈表〉配偶者の扶養の際に必要な書類

・健康保険被扶養者(異動)届

・被保険者の戸籍謄(抄)本(※)

・被保険者の住民票

・非課税証明書(被扶養者に収入がない場合)

・直近3カ月分の給与明細の写し(被扶養者に給与収入がある場合) ・確定申告書・収支内訳書・青色申告決算書の写し(被扶養者に事業所得や 不動産収入がある場合)

・退職時の源泉徴収票または廃業届の写し(被扶養者に過去1年以内に収入があった場合)

※被保険者と扶養認定を受ける方それぞれのマイナンバーが届書に記載されていれば不要になる場合もあります。

認定要件は「過去の年収」ではなく「未来の年収」

「社会保険上の扶養」においては「130万円の壁」がありますが、前述した収入要件は今後1年間に予想される収入を指します。つまり、過去1年以内の収入は踏まえなくていいのです。

たとえば、6月に結婚して配偶者の扶養に入るとします。その年の 1月から 5月にかけては就業しており、5カ月間で150万円稼いでいたとしても、その150万円はカウントされず、「130万円の壁」を超えたことにはなりません。そのため、 6月から扶養に入ることができます。

今後1年間で130万円を超えるか超えないかが基準となるので、重要なのは1年間の総額ではなく月々の収入額です。日本年金機構でも、130万円を12 カ月で割った「月額10万8,333円以下」を収入要件としています5)。

ちなみに、仕事を辞めた際に受け取る失業手当も収入と見なされます。その場合の要件は「日額3,611円以下」とされているので、失業手当を受け取っている方はその金額も確認しましょう。

参考資料

5) 日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」

手続きを忘れても半年間はまだ間に合う

もし、扶養に入る手続きを忘れてしまったとしても、年金保険料に関しては半年分さかのぼって還付してもらえます。ただし、健康保険料は還付されないので、 手続きを早く行うに越したことはないでしょう。

扶養から外れる時も手続きは必要?

収入が要件を超えたり職場復帰をしたりして、扶養を外れることもあるでしょ う。そのような場合にも手続きが必要です。

ポイントは扶養から外れた後の手続き

配偶者の扶養から外れる際も、扶養に入る時と同様に扶養する側の勤務する会 社に「健康保険被扶養者(異動)届」を提出します。

配偶者の扶養から外れ、自営業者やフリーランス、無職などの第1号被保険者 になるのであれば、住んでいる自治体の役所で国民健康保険、年金事務所で国民年金の手続きが必要になります。

収入が増えて扶養から外れる場合や就職する場合は第2号被保険者になり、必要な手続きは勤務先の会社が行ってくれるので、自分で行うことはありません。

離婚をしたら扶養から外れるため手続きが必要

配偶者の扶養に入っている状態で離婚をした場合、離婚届を出した日に扶養から外れると考えましょう。離婚後に第1号被保険者になるのであれば、役所や年金事務所での手続きが必要になります。

離婚するタイミングで就職したり130万円を超えて稼いだりする場合は第2号被保険者になるため、社会保険に関する手続きは不要です。

扶養に入ったら健康保険はどうなるの?

扶養に入ることで年金保険料は免除されますが、基礎年金は受け取れることがわかりました。では、健康保険も同じように適用されるのでしょうか。

被扶養者も病気・ケガ・介護に対する保険給付あり

配偶者の扶養に入っていれば、配偶者の健康保険に加入していることになるた め、病気やケガでの医療機関の受診や介護サービスの利用の際に保険適用となります。医療費は3割負担で、高額療養費制度なども利用できます。

扶養に入ると「出産に関する補助・給付金」は減少

出産に関する費用として、第2号被保険者には「出産一時金」「出産手当金」「妊婦検診費用の補助」「育児休業給付金」が支給されます。

一方、配偶者の扶養に入っている第3号被保険者に支給される費用は「出産一時金」と「妊婦検診費用の補助」に限られます。会社を休む期間の補助金として 支給される「出産手当金」「育児休業給付金」の対象にはなりません。

民間の生命保険は控除の対象になる可能性あり

民間の生命保険に支払っている保険料は、「生命保険料控除」として所得税や住 民税の控除につなげられます。生命保険・介護医療保険・個人年金保険が対象となり、年間の保険料が8万円を超えている場合、所得税から4万円が控除されます6)。

「生命保険料控除」は、扶養している家族の保険料も合算して申告できるので す。たとえば、会社員の夫の保険料が年間5万円、被扶養者の妻の保険料が年間4万円であれば、夫婦の保険料を合わせて申告することで夫の所得税から4万円控除することができるのです。「生命保険料控除」の枠が余っているようであれば、扶養されている側の保険料も合算しましょう。

参考資料

6) 国税庁「生命保険料控除」

ライフプランによって変わる働き方

仕事をしつつも、家族と過ごす時間や子どもにかける費用を優先したい方であ れば、年収130万円以内で働き、金銭的にも時間的にも負担を減らせるといいでしょう。一方、老後資金が不安な方や将来豊かに過ごしたい方は、130万円を超えて働き、厚生年金を上乗せすることをおすすめします。その場合、130万円ギリギリではなく、180万円以上を目指すと手取り分も増えて日々の生活でも助かります。

扶養に入っても入らなくても、それぞれにメリットがあります。ライフプランを立て、家族はどのタイミングでお金が必要になるか、自分はどのように働いていきたいのか、改めて考えてみましょう。

この記事の執筆協力

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